何から何まで理解できなかった「流星ワゴン」

最近、おもしろい本、感動する本を読みたいと思っているのだが、なかなか出会えない。

ハズレをひきたくないので、よかった、感動したと評判の本を選んだが、それでも「手紙(東野圭吾)」「永遠の0(百田尚樹)」と、期待外れの結果に終わった。
今度こそというわけで、「とんび」がよかった重松清の「流星ワゴン」を読んだ。

流星ワゴン(重松 清)

主人公の永田一雄は38歳。リストラされ、妻の美代子はテレクラで男と不倫、息子の広樹は家庭内暴力で、家庭崩壊している。
死んでもいい・・・そう思ったある日、目の前に1台のオデッセイが現れる。ちなみにオデッセイはホンダのワゴン車「オデッセイ(ODYSSEY)」だ。
で、そのオデッセイに乗っているのが、5年前に交通事故で亡くなった橋本義明・健太親子。成仏できていないって話なので、幽霊になるのかな?
そのオデッセイに一雄が連れて行かれるのが今から1年前の世界。さらにそこに一雄の父、チュウさんこと忠雄も加わる。しかもこのチュウさん、まだご存命なので、幽霊ではない。それでいて、なぜか25年前、38歳に若返っている。

なんなんだ? この話、この設定は?
と、普通の人は思わないのか?
子供向けのおとぎ話なら、アリかもしれないが、正直、僕は荒唐無稽過ぎて、置いてけぼりをくらったというか、まったくついていけなかった。

本当に1年前にさかのぼったのか、夢を見ているのか、それはもういい。チュウさんは25年前からやってきたのか、現在のチュウさんが25年前の姿になって目の前に現れたのか、それももういい。細かいことを気にしだすと、この本は読めないのだ。
そこは気にしないで、先に進めよう。

なぜオデッセイは1年前に戻ったのか?
どうやら、一雄が死のうと思うきっかけになった家庭崩壊。この家庭崩壊へのきっかけとなる出来事、ターニングポイントが1年前にあったらしい。その重要な日を順番に体験していくことになる。

ちなみにリストラも、そのうちの1日がきっかけになったと一雄は思っている。会社の経営危機のきっかけになるのが会長の死で、その会長の社葬の後、目端の利く社員は精進落としだので役員にすり寄っていったが、自分はそこまで読めずに、社内の生き残り競争に出遅れてしまい、解雇リストに名前が載ったと思っている。
アホかっ! お前がリストラにあったのは、それだけが理由やないやろ! と、叫びそうになった。

話がそれたが、その重要な日を繰り返すことによって、1年前に気づかなかったことに気づいていく。
一雄は未来を変えようとするのだが、未来を変えることはできないし、ここで経験したことはオデッセイに乗っているメンバー以外は忘れてしまう。
未来は変えられず、ただただその日を経験するだけ。
なんなんだ、この設定は?

そして、何よりも理解できないのが、もう数え切れないくらいの男と会ったという美代子のテレクラ通い。
それを知っていて、まだ愛していると言って抱く一雄。
「他の男とはどんなことをしているのか?」とか考えながら抱いたり、「あと小一時間もすれば別の場所で別の男に抱かれる」とわかっていながら、妻を男の待ち合わせ場所に送っていくのだ。
ちなみに、美代子がどうしてテレクラにハマっていったのか、その理由はわからず終い。「ときどき、我慢できなくなるの。欲しくなるの、あなたじゃないひとが。」とか言われても「ハァ?」としか思えない。
女心とはそんなものよ、と言われてしまったら、それまでだが、僕には理解できなかった。

思い起こせば、最初から一雄の気持ちは理解しにくかった。

間抜けで哀れな父親がいた。
五年前の話だ。
新聞の社会面に小さな記事が載っていた。

一雄が、オデッセイに乗る橋下親子の交通事故を新聞の記事で知るところから、この本は始まる。

最初は「なんだよ、この親父」と声をあげて笑い、新聞を閉じてから少し悲しくなった。

自分と自分の子供と、同い年の親子の交通事故の新聞記事を見て、「気の毒に・・・」と思うのではなく、「なんだよ、この親父」と声をあげて笑う感覚。
僕には理解できない。