「雀蜂」貴志祐介ファンなので、あえて書く。
「雀蜂」(貴志 祐介)を読んだ。
貴志祐介の作品は好きで、90年代は「十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA」「黒い家」と著書を読んでいた。
特に「天使の囀り」が好きで、当時、何かおもしろい本はないか?と聞かれた時は、いつもこの本を薦めていた。
「クリムゾンの迷宮」を読んだ時、角川ホラー文庫の本であるにもかかわらず、ホラーというよりもSFっぽくて、あれ?と思っていたら、「青の炎」で、なんだか違うと思っていたら、新作が出なくなってしまった。
5年ほど待って、ようやく発表されたのが、防犯探偵・榎本シリーズの「硝子のハンマー」。これは、前半が探偵役視点で描かれ、後半が犯人側から描かれた倒叙形式で、結構楽しめた。
次の「新世界より」まで、さらに4年。期待して読むが、周りの評価とは裏腹に、読みたい貴志祐介ではなかった。
次がダメなら、もう読むのはやめようかと思って読んだ「悪の教典」。これがおもしろかった。
今「Amazonの評価なんて気にせず読むべし「悪の教典」(貴志 祐介)」を読み直すと、同じこと書いてた・・・
ちなみに「ダークゾーン」だが、苦手な「クリムゾンの迷宮」と同じ匂いを感じたので、これは読まずにパスした。
そんなわけで、今回の「雀蜂」は久しぶりに、あのおもしろかった初期の頃の「十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA」「黒い家」「天使の囀り」「クリムゾンの迷宮」と同じ角川ホラー文庫だ。
これは期待できる。 かも?
ただ、あらすじを読んで、若干不安を感じないわけでもなかった。
11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!
「Amazon.co.jp: 雀蜂 (角川ホラー文庫): 貴志 祐介: 本」より
ス、ス、スズメバチ?
刺されると死に至ることもあることは知っているが・・・
読んでみて、不安は的中。
スズメバチがキケンなことはわかっていても、猛獣ならいざ知らず、スズメバチは殺そうと思えば殺してしまえるせいか、どうも緊張感がなかった。
例えば、熊が相手なら、ぜんぜん緊張感が違うだろう。
ネットでよく見かける有名な「熊のスペック」のコピペを見ると、実に恐ろしい。
熊のスペック
- 5tを超えるマイクロバスの下敷きになっても平気&持ち上げて脱出できる
- ライオンやトラの首を一撃で折ったり千切り飛ばす
- 体重300kg超える体重でするする木に昇る
- 20kmくらい余裕で泳ぐ
- 時速70kmくらい出てる軽トラに余裕で伴走
- 100mを6~7秒でダッシュする
- 嗅覚は生物トップクラス
- 止め足など高度な戦術を駆使して頭脳戦でも人間を凌ぐことも多い
- 爪の長さは10cmを超え、固く凍った地面でも余裕で掘れ、切れ味はカミソリ並
- 頭を撃たれても脳のダメージが少なければダッシュしてくる
- 心臓に弾丸が直撃しても数分は生きててダッシュしてくる
- 自動ドアのボタンを自分で押して室内に入ってくる
最後の「自動ドアのボタンを自分で押して室内に入ってくる」はウソやろ?と思って検索してみたら、本当の話だった・・・
店の経営者大久保雄一さん(63)によると、外でガタガタと音がしたため「何だろう」と思っていると、自動ドアが開き、クマが入ってきた。
「体重180キロのクマ 自動ドア開けて来店 ― スポニチ Sponichi Annex 社会」より
象もやさしそうなイメージと違って、ネットでよく見かける有名な「ゾウのすごいとこまとめ」のコピペを見ると、結構恐ろしい。
ゾウのすごいとこまとめ
- 何しろデカイ 地上最大
- 角がつよい 地球最強
- 鼻が長い 高いところのリンゴもとれるパオ
- 目が優しい ゾウさんの目を見てると、優しい気持ちになれるの
- 乾季には自分で水を掘る ナチュラルボーンオアシスメーカー
- しかも水が減ってきたら砂で埋めて隠す 中二男子よりよっぽど賢い!
- 高い学習能力!一度攻撃された人は忘れない! ことえりとかよりよっぽど賢い!
- 足の裏が耳的存在 低周波で、遠く離れた土地の雨をしっかりキャッチ!
- お葬式もするよ ゾウさんの心の細やかさはー天井知らずやでー
- 毒餌は決して食べず、ご飯をもらうために懸命に芸をします 涙で前が見えません。
- 鏡に映った姿を自分だと認識できる これができるのは大型霊長類とイルカだけ!まさに動物界のエリート!
ん? そんなに怖くないか?
他の貴志祐介作品と比べて短い236ページということで、物足りなさも感じたが、この話を倍の長さにされるとダラダラ長くなるだけ。そう考えると、逆にもう少し短くして、短編集にしてもよかったのではないかと思った。
あと、登場人物が少ない話なのに、その中に角川書店の編集者がいた。それも結構重要な役で。殺虫剤などストーリーに影響するものの名前は架空の名前が多いのに、なぜそこだけ「角川書店」なのだ?
読んでいて、そこはかとない違和感を感じた。
「株式会社KADOKAWAオフィシャルサイト」を見ていると、「角川ホラー文庫20周年記念、書き下ろし傑作ホラー!」と書いてあった。
角川ホラー文庫20周年記念・・・
書き下ろし・・・
角川書店の編集者・・・
まさかとは思うが、20周年のスケジュールで書き下ろしたため、完成度が低いまま出したとか?
と、そんなことを考えてしまうくらい、他の貴志祐介作品より満足度が低かった。「クリムゾンの迷宮」や「新世界より」は、好みではなかったが、もっと完成度が高く感じたのだが・・・
あらすじに書いてあった「最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!」だが、確かにどんでん返しはあったし、予測はできなかった。
でも、「おぉ〜っ!」や「えぇ〜!」って感じではなく、「ふ〜ん・・・」という感じだった。
家にあるものをかき集めて、知識と小道具でスズメバチに向かうところなんかは「硝子のハンマー」の防犯センサーに感知されない格好を彷彿としたし、スズメバチを殺戮するところでは「悪の教典」を思い出した。
貴志祐介ファンなので、ちょっと評価が厳しくなってしまったかもしれないが、もう少しなんとかならなかったのかと、ちょっと残念だった。そこまで期待していなかったら、もうちょっと楽しめたかな?
あと、主人公の安斎智哉は貴志祐介と重なるところが多い。
こんな経験したのかな? なんて考えてしまった。
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