百鬼夜行シリーズが好きな人にもオススメ「書楼弔堂 破暁」--どのようなご本をご所望ですか--

「書楼弔堂 破暁」(京極 夏彦)を読んだ。

書楼弔堂 破暁(京極 夏彦)

物語の舞台は明治20年代の東京の郊外。
主人公の高遠は煙草製造会社に勤務しているが、体調を悪くしたことが原因で休職し、妻子と離れた場所で一人暮らしをしている。

高遠の趣味は読書で、近所の書店「書楼弔堂(しょろうとむらいどう)」に入り浸っている。弔堂は三階建ての燈台のような建物で、中にはおびただしい数の本がある。

どのようなご本をご所望ですか----と亭主は云った。

そう言って弔堂の主は、本を求めて来た人に一冊の本を薦める。
本は生涯に一冊あればいいのです。その人の一冊と、その本の一人を巡り合わせるために、店を営んでいると言う。

知らないことなどないのではないか? と思わせる幅広い知識を持つ弔堂の主。古本屋の主であり、神主で憑きもの落としの陰陽師のあの男とイメージが重なるのは、僕だけではないはずだ。
そう、京極夏彦の百鬼夜行シリーズの京極堂こと中善寺秋彦だ。

ただ、弔堂の主は京極堂と比べると、年齢的には近いのではないかと思うが、落ち着いて大人に見える。
そう考えると、高遠は落ち着いて大人な関口に見えなくもない。
京極堂が言葉で憑きものを落とすのに対して、弔堂は本で憑き物を落とす。と捉えられなくもない。

臨終、発心、方便、贖罪、闕如、未完の6話の短編集だが、だいたいがこのような流れになっている。

百鬼夜行シリーズが好きな人なら、楽しめるのではないだろうか?
特に第六話の「未完」は、百鬼夜行シリーズに関係する人も登場してくるので、これだけでも読んでおくべきだろう。

そんなわけで、とてもおもしろかった。
でも、教養があれば、もっと楽しめたのではないかと思う。

それぞれの話の終わりには後日談があり、「この男、●●●●。のちの○○○○である。」とタネ明かしがあるのだが、それが国語や歴史の授業で登場した有名人で、「おぉっ! この話が史実であるあの話につながるのか!」となるはずなのだが・・・
それぞれ名前くらいしか覚えていないので、「そんな人だったっけ? ふ〜ん・・・」としか思えないのだ。知らなくても楽しめるが、知っていると、より楽しめたのではないかと思う。

今まで考えたこともなかったが、明治時代って不思議な時代だったのだと感じた。江戸時代から文明開化で現代と変わりのない明治時代にガラリと変わったと思い込んでいたのだが、いきなり変わったわけではなく、江戸時代と繋がっていたのだなと思った。

電子書籍版は発売日が数日遅かったので、久しぶりに単行本で読んだが、カバンの中に入れると大きくて邪魔になるし、重かった。
電子書籍版も同時に発売して欲しいものだ。