半沢直樹シリーズ第4弾「銀翼のイカロス」半沢直樹はジェームズ・ボンドか? 水戸黄門か?

半沢直樹シリーズ第4弾「銀翼のイカロス」(池井戸 潤)を読んだ。

銀翼のイカロス(池井戸 潤)

今回もとてもおもしろかった。

中野渡頭取の命令で半沢直樹は経営再建中の帝国航空を任される。
再建に向けて取り組もうとしていたある日、憲民党から進政党に政権交代する。国土交通大臣が前政権の有識者会議の再建プランを白紙撤回し、新たに再生タスクフォースを立ち上げる。寝耳に水の半沢だが、再生タスクフォースは東京中央銀行に500億円もの債権放棄を求めてくる。
再建を政治の道具に使おうとしている大臣に、金と名声が目的の再生タスクフォースのリーダー。スジの通らない再建放棄を半沢は受けるのか?

もちろん話はこれだけではない。前任者の嫌がらせや、社内の派閥争いなど、解決しなければいけない問題がいろいろ出てくる。

ただ、今までの半沢シリーズと比べると、たいしてピンチに陥った感じがあまりしなかった。むしろテンポ良く、とんとん拍子で解決していく感じだ。

今まで、頼りになる同期の渡真利や部下など力になってくれる人もいたが、基本的に半沢直樹一人で悩み、闘っていた。しかし、今回は「こんな人いるのか?」というような強い味方が表れたり、渡真利だけでなく近藤も力になってくれるし、中野渡頭取まで味方になる。

無敵感が半端じゃないのだ。わかりやすく例えると、007 ジェームズ・ボンドだ。世界中から集められた情報や秘密兵器を与えられ、後ろには英国政府がある。
ただし、読んでいて007を想像する人はほとんどいないだろう。

ドラマ「半沢直樹」や過去の半沢シリーズを読んで、わかりやすい勧善懲悪が時代劇のように感じた人も多いと思う。しかし、今回はさらにわかりやすく書かれている。特に悪役の行動や態度は本当に憎たらしく、まさに時代劇の悪代官を見ているようだった。
時代劇の中でも「水戸黄門」の域に近づきつつあると感じた。

ドラマ化を見込んでなのか、ファンサービスなのかわからないが、金融庁の黒崎が出てくる。もちろんストーリーにも関係するのだが、正直、なくてもよかったんじゃないかと思った。
それよりも、開発投資銀行・谷川の話など、もっと丁寧に描いて欲しいと感じた。2時間ドラマくらいの長さに感じたが、もう少し長く全11話のドラマくらいのボリュームが欲しく感じた。

家庭での花との絡みも一切ないので、バンカー・半沢でなく、人間・半沢のシーンが薄く、このあたりが上記の「とんとん拍子」や「ジェームズ・ボンド」に繋がっているのではないかと思う。

今回、個人的に一番響いたのはこれだ。

「従うより、逆らうほうがずっと難しい」
「だが、与信所管部の仕事は、あくまで合理的で正しい結論を導き出すことだ。我々がもし、意図して誤った結論を役員会に上げたとしたら、それは我々自身の存在を否定することになる。世渡りのために結論を歪めるわけにはいかん」

本当は別の選択肢を選ぶべきだとわかっていながら、上からの指示で対応する。
そんな経験、誰でも一度や二度、いやもっとあるのではないだろうか?
でも、それは自分の仕事、自分の存在を否定することにならないか?
いや、そう言われると、そうなんだけど・・・

半沢直樹はおもしろいのだが、読んでいて身につまされたり、自己嫌悪に陥ることがよくある。

誰でも半沢直樹にはなれない。でも、読んでいる間だけは、みんなが半沢直樹になれる。だから、おもしろいのだろう。と思う。

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