おぞましくておぞましくて、反吐が出そうな話「百田尚樹『殉愛』の真実」

2014年1月3日に亡くなった、やしきたかじんの冠番組がようやくすべて終了するというニュースがありました。

たかじんさん冠番組、完全消滅へ 「たかじんNOマネー」今夏にも終了
サンケイスポーツ 5月28日(木)7時0分配信

歌手でタレント、やしきたかじんさん(享年64)の名が付く最後の番組「たかじんNOマネーBLACK」(テレビ大阪、土曜後1・0)が、今夏にも終了する方向で調整中であることが27日、関係者への取材で分かった。同局は今年1月の新春社長会見で「タイトルも含め、総合的に検討中」と変更の可能性を示唆。3月の改編会見で一度は継続を発表していたが、これでたかじんさんの"冠番組"はすべて消えることになる。

たかじんさん冠番組、完全消滅へ 「たかじんNOマネー」今夏にも終了 (サンケイスポーツ) - Yahoo!ニュース」より

亡くなって1年も経つのに、一体いつまで「やしきたかじん」の名前を使うのだろうと思っていました。

百田尚樹「殉愛」の真実(角岡 伸彦/西岡 研介/家鋪 渡/宝島「殉愛騒動」取材班)

「名前を残しておく方が観る人が多いから、テレビ関係者としてはいつまでも残しておきたいのか?」くらいに思っていたのですが、「百田尚樹『殉愛』の真実」(角岡 伸彦/西岡 研介/家鋪 渡/宝島「殉愛騒動」取材班)を読むと、そこに載っていたのは、おぞましくておぞましくて、反吐が出そうな話でした。

関西人なので、たかじんのテレビ番組を観ることもありましたが、特別な思い入れはありませんでした。

この本を読むきっかけとなったのは、百田尚樹の「殉愛」が発売された日に放映された「中居正広の金曜日のスマたちへ」(TBSテレビ)をたまたま観たことでした。

元々「中居正広の金曜日のスマたちへ」も、ほとんど観たことがなかったし、やしきたかじんの死についてもそんなに興味がなく、たまたまテレビをつけたらやっていただけなのですが、その日は「殉愛」の特集でした。

たかじんとその夫人のさくらの馴れ初めから、たかじんの最期までを、そして百田尚樹が「殉愛」を執筆する経緯を再現ドラマとともに紹介されていました。

あの番組を観た多くの人は「ええ話」に感動して、「殉愛」を読もうと思ったのではないかと思いますが、僕はそのようには思えませんでした。

今はさくらの離婚歴やその他いろんな疑惑が話題になっていますが、当然「金スマ」を観た時はそんなことは一切知りませんでした。つまり、何の先入観もなく観たのですが、そこはかとない違和感を覚えました。だから、感動もしませんでしたし、「殉愛」を読もうなんて思いもしませんでした。

それからわずか3ヵ月ほど後に発売されたのが、この「百田尚樹『殉愛』の真実」でした。

ぜんぜん興味がなかったのですが、たまたま本屋で見かけ、パラパラと読んで見ると、あの時「金スマ」を見て感じた違和感がスーッと落ちていったのでした。

著者の一人にたかじんの実弟で四男の家鋪渡がいることでわかるように、さくら視点で書かれている「殉愛」とは、真逆の立場で書かれています。
だから「●●だった」「いや、■■■だった」とそれぞれの本で書かれていることが異なることも多く、どちらが正しいかはわかりません。なので、お互いの言い分については触れず、弁護士が記録に残していることや、第三者の証言などを元に判断しながら、読みました。

金庫の2億8000万円

読み始めて、いきなり2億8000万円の現金の話が出てきて驚きました。

たかじんの大阪の自宅マンションには金庫が2つ残されており、片方には1億円、もう1つには1億8000万円があったという。ところがさくらは、たかじんの遺言執行者でもあるY弁護士に対し「金庫内の現金は、私のものだったということにしてほしい」と持ちかけていたというのだ。しかもY弁護士にこれを断られた後、「遺言執行者解任」を裁判所に申し立てており、Y弁護士は自主的に辞任している。この際のさくらの陳述書には<私と主人の間では2年前に業務委託契約書を作成し、毎月一定額の支払いを受ける約束になっており、私が現金を受け取ることになっていましたので、私の現金があっても不思議ではありません>と書かれていた。

さくらの言っていることが本当かどうかはわかりません。たかじんの金庫に入っている2億8000万円が本当にさくらのものだったのか、自分のものにしようとウソを言っているのか、わかりません。
こんなことをして何もメリットがあると思えないのですが、たかじんの遺言執行者でもあるY弁護士がさくらに「金庫内の現金は、私のものだったということにしてほしい」と持ちかけられというのも、本当かどうかわかりません。

しかし、確実に事実だとわかることがあります。さくらの「私と主人の間では2年前に業務委託契約書を作成し、毎月一定額の支払いを受ける約束になっている」です。この契約自体が事実(本当にそのような業務委託契約を交わしていたのか)かどうかはわかりません。ただ、この「業務委託契約」が事実なら、「殉愛」に描かれていた看護の日々の一体どこが無償の愛で、どこが純愛ノンフィクションなのでしょう。

さらにこの話はこれで終わらない。最初は「遺産ではなく自分のもの」と主張し、次は「業務委託契約」で得られる金(しかもその契約はただの書類で、1円ももらっていない)、その後は「生活費の余剰金」に「リボンのついた100万円の束」、そしてイベントごとの贖罪のための「300万円」と、意見を二転三転していく。こんな話を一体誰が信じられるだろうか?

右ハンドルのベンツ

取れる金は搾り取れるだけ搾り取る。そんな風に感じてしまうさくらですが、ここまでやるかと感じたのが車の話でした。

たかじんが亡くなる1ヵ月前、12月の初頭に突然、奇妙なことを言い出す。「殉愛」で悪者扱いされたマネージャーのK氏とさくらがいる前で、「今乗ってる車(トヨタの大型バン・ヴェルファイア)は乗り心地が悪いから買い換えたい」と。8人乗りを4人乗りに改造したヴェルファイアは、乗り心地がいいはずなのに、クラウンに買い換えたいと。闘病生活で車に乗る機会はほとんどなかったし、車好きでもないのに、おかしなことを言い出すとK氏は思う。

そこにさくらからK氏にメールがくる。
「師匠(たかじん)がベンツの2500万円の最高級車を買うと言うてる。ただし、絶対右ハンドルにしてくれと」
「左ハンドルやったら年内に納車できるけど、右ハンドルなら春になる」と、K氏がさくらに伝えたら「どうしても年内に納車してほしい」と言われる。

結局、12月の半ばごろ、K氏がたかじんと2人きりになったとき、「もうベンツええわ」と言われてキャンセルするのだが、たかじんは運転免許証を持っていないので自分で乗ることはない。
また、それまでにベンツやキャデラックなどの左ハンドルの輸入車を購入し、K氏が運転していたが、右ハンドルにしてくれと言われたことは一度もない。

これから考えると、さくらが乗るつもりだったのではないかと思いました。
年明けまでたかじんの命がもつかどうかわからないと考えて、右ハンドルのベンツの納車を急がしたのではないだろうか?
もし、これが本当なら、えげつない話です。

たかじんのハイエナ

たかじん利権を吸い尽くすために会社「Office TAKAJIN」を設立するなど、これをさくら一人で全部やっているのか? と疑問に感じていました。

金のためなら・・・とは言え、むしり取るためにはあらゆる手段をとってきますし、その行動力もハンパじゃありません。

やはりハイエナのようなテレビ関係者が出てきました。

こんなことなら、たかじんのテレビ番組は終わってしまえばいいのにと思いましたが、最初に書いたように、ようやくその時がきたようです。

まぁ、これで彼らに入るお金の動きが止まるのか、どうか、わかりませんが。

家族

一番気の毒だったのは、たかじんと家族でしょう。

さくらに口止めされ、家族は病院の名前すら教えてもらえず、お見舞いに行けなかったようです。そして、たかじんが亡くなったことを知るのは、亡くなってから4日後でした。死に目にも会えず、亡くなってから1ヵ月後、ようやく会えた時は遺骨でした。

病にふけっている時、家族が誰も見舞いに来てくれない。たかじんの気持ちを思うと、本当に気の毒に思えてきました。

「えらい女に引っかかってしまった」気づいていたのか、何もわからないままだったのか、気になるところです。

百田尚樹の謎

百田尚樹の著書は「永遠の0」しか読んでいませんが、「永遠の0」は「「永遠の0」がつまらない理由」で書いたように、話が稚拙で、登場人物が薄っぺらく感じました。

おそらく「殉愛」も同じように「善 vs 悪」に話を持っていこうとしたのではないでしょうか。さくらが素晴らしい妻であることを強調するために、前妻の智子を金銭に貪欲で、暴力的で、夫を家に寄りつかせない悪妻として描いていたようです。これはヒドい話です。

どうして百田尚樹はこんな仕事を受けたのだろうか。百田尚樹ほどの売れっ子作家であれば、仕事も選べたはずなのに。

そして一番の謎は、百田尚樹はさくらのことをどう思っていたのか。ということです。

全部わかったうえで書いたのか、見破れずにまんまと乗せられて書いてしまったのか、これは「永遠の謎」です。