一人でも多くの人に読んでもらいたい「桶川ストーカー殺人事件 ー遺言」

「桶川ストーカー殺人事件 ー遺言」(清水 潔)を読みました。

桶川ストーカー殺人事件 ー遺言(清水 潔)

1999年、埼玉県桶川市の桶川駅前で、21歳の女子大生・猪野詩織さんがストーカーに殺される事件がありました。テレビのニュースで見ただけの知識しかなく、詩織さんを誹謗中傷するビラを近所に撒かれたりしていたという話が記憶に残っています。

イメージしていたのは、詩織さんに交際を断られた犯人があきらめきれずにストーカー化し、いつの間にかビラを撒くまでになってしまった。というストーリーでしたが、この本を読んでわかりました。ぜんぜん間違っていたことを。

まず、ストーカーの小松和人(当時27歳)が殺したのではなく、小松和人の兄、小松武史(元消防庁職員 当時32歳)が経営する風俗店の店主・久保田祥史(当時34歳)が殺すという複雑な事件でした。他に伊藤嘉孝(当時32歳)、川上聡(当時31歳)の3人も逮捕されていますが、主犯の小松和人は謎の自殺で亡くなり、結局、殺人罪ではなく名誉毀損罪で被疑者死亡のまま起訴猶予となっています。

詩織さんの友人から聞かされた「詩織は小松と警察に殺されたんです」から著者は調査を始めるのですが、真実が明らかになるにしたがい、この言葉の意味がわかってきます。

詩織さんが警察に相談に行くも、マトモに取り合ってくれなかったため、手遅れになってしまった。くらいのことだと思っていたのですが、違いました。どこの警察も同じようなものだと思っていましたが、違いました。

悪いのはもちろん犯人グループなのは言うまでもありませんが、埼玉県警もクズ。上尾署もクズでした。

詩織さんが殺害されるまでも、詩織さんの出した告訴を取り下げようとさせたり、出された告訴調書を改竄したり、犯罪を起こしています。

実際、埼玉県警は署員の桐敏男、古田裕一、本多剛の3人を懲戒免職し、西村浩司埼玉県警本部長(当時55歳)、横内泉刑事部長(当時40歳)、渡部兼光上尾署長(当時55歳)、茂木邦英県警刑事部主席調査官(当時48歳・上尾署刑事生活安全担当次長)、山田効上尾署刑事生活安全担当次長(当時46歳)を減給処分しています。

事件後の捜査もヒドいものでしたが、遺族が埼玉県(埼玉県警)に対して国家賠償請求訴訟を起こすと、さらに「この事件はストーカー事件ではない」「単なる男女の痴話喧嘩」「遺書は若い女性特有の空想」などと反論する始末でした。

2000年には、埼玉県警警視の住むマンションの放火事件がありましたが、これを読むと、まだまだ表に出ていない闇があるように感じます。

2000年10月7日、埼玉県警警視の住むマンションの玄関扉外側から出火。県警は別の脅迫容疑で逮捕されていた巡査部長を放火容疑で再逮捕した。警視は桶川事件当時の上尾署刑事生活安全担当次長で、告訴取り下げや告訴状改竄を直接、間接に指示し得る立場にあった人物である。また逮捕された巡査部長は桶川事件当時上尾署の刑事であり、さらに最初の逮捕容疑となった脅迫事件の被害者も当時の上尾署員だった。容疑者は刑事から交番勤務に左遷されていたことから、恨みによる犯行とされた。一方で容疑者は、桶川事件では最初に被害者の女子大生に応対し、相談内容の深刻さに同情して当初は熱心に話を聞いてくれていたという。容疑者は有罪判決を受け服役中に自殺した。またこの放火事件への対処に不信感を表明した別の刑事ものちに自殺している

桶川ストーカー殺人事件 - Wikipedia」より

関係者には「こんなことをするために警察官になったのか?」と聞いてみたいと思いました。

読んでいると小松和人には胸くそ悪い思いにさせられますが、やがて溜飲が下がります。ただ、真相がわからずスッキリしない幕引きと言えます。それでも著者の行動力には感心させられました。若い頃にこの本を読んでいたら、このような仕事をしたいと思ったかもしれません。

一つ、不満をあげるとすれば、「どう転んでも関わりたくないタイプの人間というのは確かにいる。触れるものすべてを不幸にしてしまうようなタイプの人間が」とまで書かれている小松和人ですが、どのようにして小松和人はできたのか?
家族はどんな人だったのか?
どのような子どもだったのか?
どのような環境で育ったのか?
小松和人について、もう少し詳しく知りたくなりました。

詩織さんはまだ21歳という若さで、一人で抱え込んでしまい、小松和人と取り返しのつかない関係になってしまいました。もっと早い段階でご両親や他の人に相談できれば、なんとかならなかったのかと思うと、本当に残念です。
またこの事件をきっかけに「ストーカー行為規制法」が成立しました。同じような事件は二度と起こって欲しくないものです。

イヤな気分にもなりましたが、読んでよかったと思いました。
この事件が風化しないように、同じような事件が起こらないように、埼玉県警、上尾署がどのようなことをしてきたのか知ってもらうために、多くの人にこの本を読んでもらいたいと思います。