あの時、福島第一原発では何が行われていたのか?「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」

東日本大震災から今年で5年経ちました。

2011年3月11日金曜日、あの日、僕は仕事を休んで、朝から免許証の更新をして、夕方から「探偵!ナイトスクープ」の公開収録を見学するために朝日放送に行く予定でした。

午後2時46分。
僕の住んでいる関西でも高い建物だと揺れたようですが、家の1階にいたので、地震には気づきませんでした。

ふとテレビをつけると、何か様子がおかしい。ヘルメットをかぶった人が臨時番組を行っていました。どうやらどこかで地震が起こったようだと初めて知りました。

地震にしては、物々しい雰囲気だなと思って観ていると、中継が入り、あの津波の映像が目に入ってきました。

そして、原発です。

結局、その日の「探偵!ナイトスクープ」の収録は、新幹線が動かなくなったため、東京方面からの出演者が来ることができず、関西にいた探偵と秘書の松尾依里佳さんだけで収録されました。しかも通常は2本撮りなのですが、総集編1本だけでした。「探偵!ナイトスクープ」は1988年に始まった頃から観ていますが、スタジオ収録に行ったのは、後にも先にもこの時だけなので、ちょっと残念でした。

あれから5年・・・

あの頃は毎日のようにUstreamで原発の記者会見の中継を見たり、消防車や自衛隊のヘリコプターで水をかけているところを固唾を呑んで見守っていましたが、最近は東日本大震災は過去の出来事になってしまい、原発のことを考えることもほとんどなくなってしまいました。

「そういや、そんなこともあったなぁ・・・」
まだまだ終わっていないのに、こんなことでよいのだろうか?
と、思って、「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」(門田 隆将)を読むことにしました。

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日(門田 隆将)

この本は、震災当時、福島第一原子力発電所の所長を務めていた吉田昌郎さんをはじめ、東電や協力企業、自衛隊、政治家、科学者、地元の人々など、90名を超える関係者のインタビューをもとに書かれています。

原子力発電について、僕はなくしていくべきだと思っています。安全に使えば問題ないと言われたりしますが、一歩間違うと取り返しのつかないことになってしまいます。将来的にはわかりませんが、今の人間にはコントロールできないものであり、使うにはリスクが大きすぎると思うのです。

特に「東海村JCO臨界事故」のことを知ってしまってからは、トラウマになりそうなくらい怖くなってしまいました。

また、東日本大震災が発生する以前から、原発の電源喪失時の危険性について指摘されていたにもかかわらず、安全よりも採算を優先した東電は責任を取らなければいけないと思っています。

震災直後、連日のように報道されていた福島第一原子力発電所のニュースを見るたびに、こんなやり方で大丈夫なのか? しっかりしろよ! と思っていました。

あの時、現場は想像している以上に壮絶だったことがこの本を読んでわかりました。
もし、あの時対応できていなかったら、もっと最悪のシナリオが待っていた。そんなことがいくつもあったようです。

さすがに、現場は原子力発電所のことを知り尽くしていたので、何をするべきか判断して行動されていました。
まず、格納容器につながる配管に冷却水を流せるよう、消火用ポンプからつながるようにラインを組んでいったのですが、これは緊対室からの指示ではなく、現場の判断で行ったそうです。

文章にすると簡単に聞こえてしまうかもしれません。しかし実際は、電気が落ちて真っ暗な中、懐中電灯の明かりを頼りに、バルブを開けるためにリアクタービル(原子炉建屋)に入って行くのです。想像しただけで怖くなってしまいますが、決死の覚悟だったのでしょう。最後の弁を開いた時は、1時間以上経っていたそうです。

その後、一号機の燃料が壊れたため、線量が上昇して原子炉建屋に入れられなくなってしまいます。まだ原子炉建屋に入ることのできる時間帯に、水を入れるラインを確保したおかげで、水が入っていくことができたのです。もし、ここで初動が遅かったり、間違った判断をして、水を入れることができなければ、冷却がまったくできなかったのです。

他にも苛酷な環境の中、生死を賭けて作業を行っていたことがわかりましたが、それは運転員としての使命感があったからこそできたのでしょう。

また、自衛隊の活動の間も消火班と復旧班は、ひたすら一号機から三号機までの原子炉に注水を続け、次第に冷却が進んでいったそうです。テレビの画面を観て、こんなもので冷却できるのか? と思っていましたが、できていたのです。

この本を読んでいると、基本的に悪く書かれている人はいないことがわかります。唯一、良く書かれていないのが当時の内閣総理大臣、管直人氏です。おそらく管氏には管氏の言い分もあると思うのですが、どうしようもない人に描かれていました。

あの時、福島第一原発で何が行われていたのか。忘れてしまわないためにも、多くの人に読んでもらいたいと思いました。