映画好きなら読まなきゃもったいない!「映画の見方がわかる本」

「映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで」(町山 智浩)を読みました。

「映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで」(町山 智浩)

「映画の見方がわかる本」と聞くと、こう思う人がいるのではないでしょうか?
「映画なんてどんな見方をしようとオレの勝手だ」

「映画なんてどんな見方をしようとオレの勝手だ」
そう言う人もいるでしょう。たしかにその通り。でも、映画や音楽や絵画は、人間が作るものである以上、作品の表面に直接は描かれない作者の意図、もしくは作品の背景が必ず存在するのです。

主人公が何かの目的に向かって戦う。そして最後に努力は報われる。正義は必ず勝つ。悪は滅びる。愛は成就する。そんなハッピー・エンドこそハリウッド映画。
でも、1967年から1976年頃に作られたハリウッド映画の大部分が「英雄と悪漢」に単純に割り切れないまま終わる「すっきりしない」アンハッピー・エンドばかりで、後にも先にも例を見ないきわめて特殊な時代だったそうな。

映画だけでは見えない意図や背景、いわゆるサブテキストを探っていくのがこの本です。

ブロマイド写真★『時計じかけのオレンジ』マルコム・マクダウェル/ミルクを持つ

目次に載っている映画以外にも取り上げられている映画はありますが、ここに載っている映画だけでも、確かに観るには観たけど、よくわからなかったものがあります。

第1章 『2001年宇宙の旅』映画史上最大の「マジック」のタネ明かし
第2章 『俺たちに明日はない』『卒業』『イージー・ライダー』ニューシネマという反乱
第3章 『猿の惑星』猿が猿を殺すまで
第4章 『フレンチ・コネクション』『ダーティハリー』アウトロー刑事の誕生
第5章 『時計じかけのオレンジ』レイプとウルトラ暴力とベートーベンがオレの生きがい
第6章 『地獄の黙示録』戦場は本当に「地獄」なのか?
第7章 『タクシードライバー』孤独のメッセージ
第8章 『ロッキー』70年代をノックアウトした男
第9章 『未知との遭遇』星に願いを

映画の感想を書くだけなら誰にでもできます。
「あのシーンは●●を意味している」「主人公の●●は××を象徴している」など、推測するのも簡単です。
この本は、シナリオの草稿や企画書、関係者のインタビュー、当時の雑誌記事などに当たって裏付けをされています。

読んでいると「なるほど・・・」「そういうことだったのか・・・」の連続です。
なにしろ今まで知らなかった事実や、勝手に憶測していた謎の真相が究明されていくのですから。

大きな写真、「時計じかけのオレンジ」印象的な影法師の写真

何も知らない状態でまず映画を観る。次にこの本を読む。そしてもう一度、映画を観ると、最初に観た時とまた違った印象で観ることができると思います。

それまでのハリウッド映画は「正義は正しい」「犯罪は悪い」「愛は尊い」「人間は優しい」など、教会や学校や親が教える訓示をそのままなぞっていたので、観客は何も考える必要はありませんでしたが、この時期の映画は、そんな既成の価値観に疑問をぶつけたのです。
『俺たちに明日はない』は「犯罪は本当に悪なのか?」、『2001年宇宙の旅』は「人間の本質は悪なのではないか?」、『時計じかけのオレンジ』は「犯罪者が暴れる社会と、犯罪者を洗脳してしまう社会とどっちがいい?」、『猿の惑星』は「人間は猿にも劣るのではないか?」、『イージー・ライダー』は 「本当の自由はどこにあるのか?」、『未知との遭遇』は「夢と家族とどっちを取るのか?」......。
答えは映画のなかにはなく、映画館を出た後もその問いは残る。
それこそが、当時の映画が今も名作として観られ続けている理由なのだと。

僕が映画を観るようになったのは1980年代以降なので、再びハリウッド映画は、ヒーローが悪感を倒し、愛が必ず成就する「定型」に戻っていました。

全部が全部、考えさせられる映画だと疲れてしまうと思いますが、映画館を出た後もその問いが残り続けるような映画をたまには観たいと思いました。