プロレスファンは映画「レスラー」を観よ 〜レスラーは不死身ではない〜

「ターミネーター4」や「トランスフォーマー:リベンジ」などの大型話題作の陰で、「レスラー」が6月13日に公開された。
この映画、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞などたくさん受賞しているので、映画ファンの間では話題になっているのだと思うが、一般的にはあまり話題になっていないのではないように思う。少なくとも僕のまわりではほとんど誰も知らなかった。このままあまり人目につかないまま終わらせてはいけないと思った。
プロレスファンはぜひ観て欲しい。

主人公のプロレスラー・ランディ"ザ・ラム"ロビンソンを演じるのは、80年代『ナインハーフ』などで人気のあったミッキー・ロークだ。
90年代に入り、ミッキー・ロークはボクサーに転向し、俳優としてのミッキー・ロークは僕の中から消えていった。
そして久々に俳優ミッキー・ロークの名を耳にしたのは去年のことだった。ラジオで主演の映画が紹介された。それが「レスラー」だった。
あれから半年、ようやく日本で公開されたので観てきた。

▼レスラー
https://www.wrestler.jp/

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80年代、ゲームやフィギアにもなり、国民的ヒーローだったランディは、20年経った今、50歳を過ぎても現役レスラーだが、かつての栄光の日々とはほど遠い生活を送っていた。家はトレーラーハウス。服はガムテープで修繕したダウン。そして小さな体育館で行う試合のファイトマネーだけでは生活できないので、スーパーでアルバイトしながらプロレスを続けていた。
ある日、ランディは試合直後に心臓発作を起こす。心臓のバイパス手術により一命を取り留めるが、再びリングに上がることはできないと医者から聞かされる。

まずミッキー・ロークに驚かされた。「エンゼル・ハート」に出ていた時のミッキー・ロークと同一人物と思えない。ボクシングや整形手術で変わり果てた顔はセクシーだとかセックスシンボルだとか言われていた80年代の頃の面影はなく、身体もすっかりプロレスラーの身体になっていた。

ハルク・ホーガンをはじめ、いろんなプロレスラーをモデルにしたと言われるだけあり、「誰か知ってるレスラーに似ている」「前にどこかで観たことがあるレスラー」そんな気がした。そして映画を観ているうちに「ランディは子供の頃からよく知ってるレスラー」そんな風に感じてきた。

リングを離れたランディは家族を顧みず、実の娘ともうまく接することができない。その不器用で、だらしない姿を見ていると「ランディ、何やってるんだ!」と思わされることもあった。
でもリングでは別だ。
プロレスにしか自分の居場所がないと思ったランディは、膝を痛め、ステロイドと鎮痛剤でボロボロの身体になりながら、それでもリングに上がる。
こんな姿を見ていると、もう僕にはプロレスラーに「しょっぱい」なんて言葉は使えない。

スポットライト、そして拍手と歓声の渦がランディを酔わせる。ファンの歓声はランディに輝きを与えるが、時に非常に残酷だ。
何も事情を知らない観客は必殺技「ラム・ジャム」コールを始める。それが死につながることを知っているのはランディ本人と映画を観ている僕たちだけだ。
「ランディ、頼む! やめてくれ!」
映画を観ていて叫びそうになった。
それでも、ランディはリングに向かってゆく。

1ヵ月前にこの映画を観ていたら、もっと違った気持ちで観られたかもしれないが、今このタイミングでは彼のことを考えずにいられなかった。
この映画の公開日2009年6月13日にリングで亡くなった三沢光晴だ。
ランディと三沢では、置かれている立場も、境遇も違う。二人の共通点はプロレスラーということだけかもしれない。
しかし、いろんなことが頭をよぎった。
社長業を兼任していた三沢には、引退も自分の意志だけでは決められなかっただろう。
体調も万全の状態ではなかったと聞くが、受け身の天才と言われた彼はファンの期待に応えるように技を全身で受け止めた。
身体があげる悲鳴を押し殺して、どんな気持ちでリングに上がっていったのだろうか。

ランディはこう言う「俺に"辞めろ"と言えるのはファンだけだ」。
レスラーがリングに上がり続ける限り、僕らプロレスファンは全身全霊で声援を送る。
でも、死ぬようなマネはやめてくれ。
もうこれ以上、リングで悲しい思いはしたくない。
プロレスラーは不死身ではない。間違いなく死ぬ。
100歳まで長生きしろとは言わないけど、40代や50代で死なないでくれ。
プロレスファンの目が黒いうちは、誰も死なないでくれ。

この映画を観るきっかけとなったラジオがニコニコ動画にアップされていた。
映画館では泣かなかったが、この動画のすばらしい編集に泣いてしまった。
そして、もう一度「レスラー」を観たくなった。

書いてるうちに映画「レスラー」の話か、ミッキー・ロークの話か、三沢の話か、自分でもよくわからなくなった。
もうちょっと整理してから・・・とも思ったが、それじゃダメだ。
多少わけのわからない文章でもいい、とにかく今の気持ちを伝えたかった。

プロレスファンは、一人でも多くこの映画を(DVDになってからではなく)映画館で観てほしい。