「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」さて、フロでも沸かすか・・・

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」(森岡 毅)を読んだ。

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? V字回復をもたらしたヒットの法則(森岡 毅)

最後にUSJに行ったのは5年くらい前か? それすらよく覚えていない。でも、かつてはUSJが好きだった。スタジオ・ゴールド・パスと呼ばれる年間パスも何度か持っていたくらいだ。

USJができる前

実はユニバーサル・スタジオに行ったのは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が初めてではない。USJの前に、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドに行った。USJがオープンする10年以上前の話だ。アメリカに1ヶ月ほど旅行した時に行ったのだが、その旅行で一番おもしろかったと思ったのが、ユニバーサル・スタジオだった。

それまで行ったことのある遊園地やテーマパークとは比べものにならないホンモノのエンターテイメントがそこにはあった。東京ディズニーランドはもちろん、アメリカのディズニーランドやディズニーワールドにも行ったことがある。映画が好きということが大きく影響しているのかもしれないが、ディズニーよりも感動した。洪水などは恐ろしく感じるくらいの大量の水が暴れるし、爆発する時は熱さを感じるほど大きく炎が上がる。そんな本気で来場者を楽しませようとする姿勢に夢中になった。

だから大阪にユニバーサル・スタジオができるというニュースを知った時は嬉しかった。しかし、2001年のオープンまでは7年ほど待たされることになる。結局、その間にユニバーサル・スタジオ・フロリダにも行った。ハリウッドに初めて行った時ほどのインパクトはなかったが、とても楽しめた。

2001年、USJオープン!

そして、2001年。ハリウッド映画のテーマパークとしてUSJが誕生した。これからは日本、しかも近くの大阪でユニバーサル・スタジオに行ける。そう思って、何度かスタジオ・ゴールド・パスも買ったが、徐々に行かなくなってしまった。

何度行ってもほとんど変化がないので、飽きてしまったのだ。映画もユニバーサル・スタジオも好きな僕ですら飽きてくるのだから、何度か行った人は同じように感じる人も多いのではないかと思う。

当時、気になっていたのは、どのアトラクションもテーマの映画が古いということだ。

  • ジョーズ(1975年)
  • E.T.(1982年)
  • バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985年)
  • ターミネーター2(1991年)
  • バックドラフト(1991年)
  • ジュラシック・パーク(1993年)
  • ウォーターワールド(1995年)
  • シュレック(2001年)
  • スパイダーマン(2002年)

僕は映画館で観た映画がほとんどで、思い入れのある映画も多い。しかし、オープンから10年後、2011年の時点で、スパイダーマンが9年前の映画で、それ以外は10年以上前の映画だ。10歳の子供なら、映画館で観た映画はないだろう。つまり、30歳以上の世代しか、映画と同じ体験ができると感じないのだ。

だから、USJに必要なのは、新しい映画をテーマにしたアトラクションだと思っていた。
ところが、新しくできるのは、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドや、スペース・ファンタジー・ザ・ライドなど、映画と関係のないアトラクションばかり。
どういうことだ? このままではUSJは普通の遊園地になってしまうぞ。と危惧していた。

すでにUSJが映画のテーマパークではなくなっていたことを知ったのは、その後だ。
この本にも、そのことについて書かれていた。

映画のテーマパークでなくなったUSJ

著者の森岡毅はUSJのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)で、2010年に入社し、2009年に800万人以下にまで減っていた入場者数をV字回復させたのだが、まずUSJを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」へ変えるところからスタートした。

それは「映画だけ」にこだわっても、映画好きな人が年間に10回来てくれるわけでも、10倍のお金を落としてくれる訳でもないからだ。
ただ、「映画だけ」にこだわることはやめたが、今後も「映画を軸として」大型アトラクションを展開していくらしい。

映画の大型アトラクションは高額で、導入するには、映画以外のエンターテイメント・ブランドが必要になるということらしい。
要は、450億円かけてウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターを作るには、ワンピースやモンスターハンター、エルモやハローキティなどの映画以外のブランドで稼がなくてはいけないということだ。

ただ、もうそれはユニバーサル・スタジオではない。と思うのだ。
もし、東京ディズニーランドの人気が陰り、ディズニー以外のキャラクターも扱い始めたとしよう。ミッキーマウスやミニーマウスと一緒に、日本の漫画やゲームのキャラクターが並んでいるのを見て、「これはディズニーランドじゃない」と思う人はいると思うのだが・・・
いないのか? 僕だけなのか?

しかし、森岡毅の判断は間違っていないのだろう。入場者数は徐々に増え、2013年度の入場者数は、2001年度以来12年ぶりに1000万人を超えたのだから。
映画にこだわっていたら、あのままジリ貧で入場者が減り、USJはいつかつぶれていたかもしれない。それよりも、映画の縛りをなくして、入場者を増やした方がよいだろう。

さて、この本だが、いろんなアイデアで苦境を乗り越えてきた話が書かれている。
ユニバーサル・ワンダーランド、モンスターハンター・ザ・リアル、アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド 4K3D、ホラー・ナイト、バイオハザード・ザ・リアル、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド〜バックドロップ〜、そして、ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター。
知らない人は、なるほどと感じるだろうし、当時のUSJを知る人にとっては、あの裏側ではこんな風に進行していたのかと、驚くことも少なくないだろう。

イノベーション・フレームワーク

この本は、USJが窮地を乗り越えて復活していく物語として、とても楽しく読める。しかし、それだけではない。マーケティングや企画開発担当の人はもちろん、いろんな人の参考になるアイデア発想法のビジネス書としても、とても参考になるだろう。

森岡毅は、革新的なアイデアを次々に生み出す「アイデアマン」だと思われがちだが、実際はそうではないらしい。クリエイティブなひらめきでアイデアを次々に生み出す天才とは真逆の、論理や数字を頭の中でカクカク動かすタイプだそうだ。

その森岡毅の出したこの3年間のアイデアは全て、「イノベーション・フレームワーク」と呼ぶ発想法によって生み出したという。
いかにして、良いアイデアを思いつく確率を上げるか? その確率を高める方法なのだと言う。そのために次の4つを強化する。

  1. フレームワーク
  2. リアプライ
  3. ストック
  4. コミットメント

フレームワーク

アイデアを生み出すに当たって、最初に最も大切なことは、何を必死に考えれば良いかわかっていること。「フレームワーク」を使って、探すべきアイデアの「手がかり(必要条件)」を推理する。

よく使うフレームワークは、戦略的フレームワーク、数学的フレームワーク、マーケティングフレームワークの3つで、具体的な例を挙げて説明されている。

リアプライ

フレームワークで考えるべきアイデアの必要条件が明確になったら、まず、この世界中のどこかに、過去から現在に至るどこかに、似たような問題に直面した人がいるのではないか? と疑って、世界中からアイデアを探す。

国際社会では、パテント(特許化)されていないアイデアは自由に使って良いことになっているので、日本人のビジネスマンも世界水準並みにこの力を発揮できないと、国際競争では不利になる。

ストック

アイデアを思いつくためには、そのアイデアにまつわる文脈のことをよく知っている方が圧倒的に確立を向上させることができる。蓄積された豊かな情報がストックで、ストックが強ければ強いほど、直面する問題に対しての解決策を思いつきやすくなる。

また、個人の経験知識もストックだが、それらを組み合わせた人の繋がりも強力なストックで、チーム力としてストックを増やすことも大事ということだ。
特に、専門知識やしがらみが固定概念になって新しい発想を制限する場合もあり得るので、マネジメント層は新しい発想とストックの多様性を意識してチームを編成することを重視した方が良いとのこと。

コミットメント

フレームワーク、リアプライ、ストックと違って、精神論の話になる。
どれだけ必死に考えられるかということで、最後に正否を決めるのは、このコミットメントだそうだ。

フレームワークで考えるべきポイントを明確にし、リアプライで世界中からアイデアを探し、自身やチームのストックで文脈の豊かな情報を活用したら、あとは、考えつくまで考え抜く。
これが一番大事なことだが、多くの人ができないでいる。考え続けるのはしんどいので、なんとなく諦めてしまったり、考える時間が取れない、そんな人が多いと。

「アイデアは絶対見つかる。既に存在するのに自分が見つけられていないだけだ」
そう思ってとにかく諦めないで必死に考える。来る日も来る日も、寝ても覚めても考える。そうやって考え続けていると、次第に脳が疲れるのか、不思議な状態になってゆくそうだ。

その特殊な脳の状態を表現するとこんな感じです。

  • 疲れ果ててはいないがそれなりに疲れている状態。
  • 意識ははっきりと広く透明なスッキリした状態。
  • 考える焦点以外に何にも脳が囚われていない状態。
  • 極めて冷静で集中できている状態。

そんなときにアイデアは降りてきます。自分でコントロールできる意識を取り払った状態のときに、アイデアは自分の頭の中から生まれるというよりも、どこか遠い上の方から降ってくるという感覚です。

遠い上の方からアイデアが降ってくる感覚なんて、なったことないのだが・・・
しかも、そんな特殊な状態にどうやってすればいいのか?
そう思うだろう。僕もそう思った。
でも大丈夫だ。その状態にする方法も載っている。

その状態を人工的に作り出すために、私は課題を明確にしてから熱いフロに入って、自分の意識が遠のくのが早いかアイデアを思いつくのが早いか、自分を追い込む10分間のパワータイムを設けたりしています。
そんな考え続ける日々を続けていると、寝ている最中にアイデアが降りてきて、「きた〜!」と飛び起きることもあります。ハリウッド・ドリーム・ライド〜バックドロップ〜は寝ている最中にライドが逆向きに走る絵を確かに見たのです。

えっ?
結局、熱いフロに入るだけ・・・?
あとはひたすら考え続けるだけ・・・?

こういう人を世間では「クリエイティブなひらめきでアイデアを次々に生み出す天才」って言うんじゃないのか?
いや、すぐに諦めてしまう僕がいけないのだろう・・・
さて、フロでも沸かすか・・・