非IT系の人にも「How Google Works −私たちの働き方とマネジメント」

読んでからずいぶん時間が経ってしまったが、「How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス) −私たちの働き方とマネジメント」(エリック・シュミット/ジョナサン・ローゼンバーグ/アラン・イーグル/ラリー・ペイジ/土方 奈美)を読んだ。

How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス) −私たちの働き方とマネジメント(エリック・シュミット/ジョナサン・ローゼンバーグ/アラン・イーグル/ラリー・ペイジ/土方 奈美)

今、インターネットを使っていて、Googleを知らない人はほとんどいないだろう。「検索の会社でしょ?」それで間違いはない。でも、Googleがやってきたことは、それだけではない。

今はできて当たり前だと思うことでも、よくこんなことをやろうと思ったな・・・と思うことも、少なくない。そもそも「世界中のWebサイトをデータベース化して検索できるようにする」これだけでも、よく実現させたなと思う。

今では当たり前のように存在する「ストリートビュー」。世界中の道路の写真を撮って、それをつなげて、インターネット上に再現する。理屈ではわかる。やればできるだろう。でも、よくこんなことをやろうと思ったなと思う。

もし、僕みたいな人ばかりが最初の会議に参加していたら「いや、できるかもしれないけど、誰がどうやってやるのよ? 何年かけて? えっ? 無料で公開?」となって、今ごろ「ストリートビュー」はなかったかもしれない。

「Gmail」だってそうだし、「Android」だってそうだ。これができてしまうのがGoogleだ。

会社の写真も見たことあるし、社員食堂が無料とか聞いたことはあるけど、いったいどんな会社なんだろう?

ユーザを中心に考えること

Googleのサービスの一つにアドワーズ広告がある。検索されたキーワードにあわせて、検索結果ページに広告が表示される。リスティング広告と呼ばれるものだ。

広告主は、表示される広告がクリックされる毎に広告料をGoogleに支払う。人気のキーワードだと、同じキーワードで複数の広告主が広告を出すことになる。

当初はオークション形式で、高い広告料を設定している広告が画面上部の目につきやすい場所に表示されていた。

ところがある日、広告の質を評価して「広告適合度スコア」を算出し、それにもとづいて広告が表示されるようになった。いくら高い広告料を設定していても、Googleに広告の質が低いと判断されると、目につきにくい画面の下の方に表示されるようになるのだ。

「こっちは金を払っているのに、Googleは何を考えているんだ」
当時はそう思った。客のことを考えてないのか。

この本に、当時のことが書かれていた。

2002年5月のある金曜日の午後。ラリー・ペイジがどんな検索結果や広告が表示されるかを見ていたところ、オーガニック(自然)検索の結果は妥当だったが、広告には検索語と無関係のものも含まれていたらしい。
例えば、オートバイの名車「Kawasaki H1B」で検索すると、オートバイではなく、移民にアメリカの「H-1B」ビザの取得を支援する弁護士事務所の広告ばかりが表示される。

ラリーは気に入らない結果が表示されたページをプリントアウトして、「この広告はムカつく!」と書いた。それをキッチンの掲示板に貼りだして、家に帰った。

たまたま金曜日の午後、オフィスでラリーの掲示を目にした5人のエンジニアは、週末のうちに問題を解決してしまう。広告の直接の担当者ではなく、広告がうまく機能しなくても何の責任も問われない従業員が週末をつぶして他人がやるべき仕事に取り組んだのだ。

あの時、Googleが広告主の方を見ていては、役に立たないゴミのような広告ばかりが表示され、Googleは次第に利用されなくなっていたかもしれない。

「ユーザを中心に考えること」これは広告だけの話ではないのは言うまでもない。

スマート・クリエイティブの文化

上で挙げた広告を修正したエンジニアは、Googleの優先事項をわかっているし、会社の成功の阻害要因となりそうな大きな問題を見つけたら解決する自由を与えられている。だから彼らが失敗していたとしても、彼らを責める者はいないし、また成功したことについてやっかむ者はいない。

これは、グーグルの文化ではない。彼らをグーグルに引き寄せた「スマート・クリエイティブの文化」だ。「スマート・クリエイティブ」とは、自らの専門分野に関する深い知識を持ち、それを知性、ビジネス感覚やさまざまなクリエイティブな資質と組み合わせる人物を言う。

これらを素晴らしいと思ったとしても、いきなり日本の普通の企業にGoogleのやり方を取り入れることは難しいだろう。

例えば「オフィスのカバ」(Highest-Paid Person's Opinion)と言われる「一番エラい人の意見」だ。
意志決定の質と報酬の水準は本質的に無関係だし、経験がモノを言うのは説得力のある主張の裏づけとなる場合だけだ。しかし、残念ながら「経験=説得力のある主張」とされる企業が多い。

「一番エラい人」は、威圧的な態度をとることで主張を通そうとする。「つべこべ言わずにオレの言うことを聞け!」と言ってしまったほうが簡単だ。でも、必要なのは部下を信頼することだ。そして、彼らにもっと良いやり方を考えさせる度量と自信を持つことだ。「一番エラい人」の役割は、自分のアイデアが最も優れたものではないとわかったときには、他の人間の邪魔をしないように身を引くことだ。

逆に、問題があると思った人は、懸念を表明しなければならない。そうしなければ最高とはいえない考え方が通り、懸念を口にしなかった人も共同責任を負うことになる。「異議を唱える義務」を重視する文化も必要だ。

ワークライフ・バランス

今、こんなことを言うと、「ブラック企業」と言われそうだが、ワークライフ・バランスについて、このように書かれていた。

多くの人にとって、ワーク(仕事)はライフ(生活)の重要な一部であり、切り離せるものではない。最高の文化とは、おもしろい仕事がありすぎるので、職場でも自宅でも良い意味で働きすぎになるような、そしてそれを可能にするものだという。だから、マネジャーは「ワーク」の部分をいきいきと、充実したものにする責任があるということだ。

これ、わからなくもない。
「やらされる」とブラックになるのだろうが、自分から「やりたい」と感じてやるのでは、大きく異なる。Googleの仕事なら、後者が多いのだろう。

ワークライフ・バランスとは違うが、こういう人どこにでもいる。

"ワークライフ・バランス"を促進するためではないが、私たちは社員にしっかり休暇を取るよう勧めている。誰かが自分は会社の成功に欠かせない存在なので、一〜二週間も休暇を取ったらとんでもないことになる、と思っているなら、かなり深刻な問題があるサインだ。必要不可欠な人間などいるべきではないし、またそんなことはあり得ない。ときには自分のエゴを満たすため、あるいは「必要不可欠な人間」になることが雇用の安定につながるといった誤った認識のために、わざとそいういう状況をつくりだそうとする人もいる。そういう人には必ず休暇を取らせ、その間は別の人間にその仕事を任せよう。休暇から帰った人はリフレッシュして仕事への意欲が高まり、代役を務めた人は自信がつくはずだ。

仕事を取り上げるのではなく、休暇を取らせれば、本人はリフレッシュできて、代役を務めた人は自信がつくらしい。
ん〜、ホントにうまくいくのかな?

採用と面接

採用で面接する機会があるので、参考になったことがいくつかあった。

面接では、候補者が答えるのに苦労するような質問を投げかける。過去のプロジェクトで最も難しかった点は何か。あるいは成功した理由は何か? 候補者が変化を主導する人物か、あるいはそれに追随する人物なのかを確かめる。応募者のバックグラウンドについて聞くときは、単なる過去の経験談ではなく「そこから何を学んだか」を説明させる。

上級ポストの人材を面接するときは、「シナリオ問題」がその人物が部下をどのように使い、信頼するかを見定める手がかりとなる。
例えば「あなたが危機的状況に陥ったら、あるいは重要な意思決定を迫られたら、どうしますか」という質問は、必要なことは自分でやるほうがいいと思うタイプか、周囲の力を借りようとするタイプか見るのに役立つ。
前者は同僚に対して不満を抱きやすく、すべてをコントロールしようとするのに対し、後者はすばらしい人材を採用し、信頼して仕事を任せる可能性が高い。この質問に対して一般論で答える人は、問題を見抜く目がない。また、マーケティングの教科書からコピペしてきたような答え、あるいは常識的な思考を映したような答えは、相手が凡庸で、物事を深く考える能力がない。

ちなみに、グーグルでは採用の判断を採用委員会で決定するらしい。採用するには委員会の承認が必要で、縁故や誰の推薦だとかは関係ない。データにもとづいて決める。
かといって、採用しようとしているマネジャーに何の権限もないわけではなく、委員会の会議に出席し、候補者が次の面接に進めるか否かを決めることはできる。つまり採用の「決定権」はないが、「拒否権」はある。委員会形式をとることで、無能な縁故者を合格させるのを防げるのだ。

自分の会社の採用がどうかをテストする方法が載っていた。
下位10%の社員を解雇し、代わりに新規採用者を迎え入れたら、組織全体のパフォーマンスは改善するか? もしそうであれば、質の低い社員を合格させてしまった採用プロセスを見直し、改善する方法を検討した方がいい。
もう一つ。退社したいと言われても、懸命に引き留めようと思わない社員はいるか? もし辞めてもいいと思う社員がいるなら、おそらく辞めさせたほうがいいだろう。

会議

会議についても、参考になることがいくつか書かれていた。

Googleの会議室のほとんどにはプロジェクターが2台ある。一つは他のオフィスとのビデオ会議や会議の記録を映すためのもの。もう一つはデータ用だ。
会議では、まずデータを見るところから始める。他の人を説得するのに「私が思うに...」という言い方はしない。「ちょっとこれを見てください」と言う。スライドは会議を運営するため、あるいは意見を主張するために使うべきものではない。全員が同じ事実を共有できるように、データを見せるためのものだ。

会議室に集まった全員が意見を述べられるようにする必要があるため、会議の規模は8人以下が妥当だ。会議の結果を知らせるべき人が他にもいるなら、オブザーバーとして参加させるより、情報共有のプロセスをつくるほうがいい。オブザーバーがいると、参加者が率直に意見を言いにくくなるからだ。
会議に出ることが重要な人間の証ではない。事前に出席を断る方がいいが、会議中でも自分の存在が必要ではないと感じたら退出する。

会議中に、会議とは関係のない用件でノートパソコンや携帯電話を使っているなら、会議に出るより重要な仕事があるということだ。会議に出ている者は全員、その内容に集中すべきで、会議が多すぎて仕事が終わらないというのなら、優先順位をつけ、出席する会議を減らす。

読んでいて、心当たりある人も多いのではないだろうか。

最後に

長々と書いてしまったが、これらはほんの一部だ。

これを我が社でも・・・と思ってもできないことも多いだろう。

でも、IT系だとか、技術職だとか、そういうことは関係なく、誰が読んでも何か参考になるのではないかと思った。

何か一つでもヒントになることがあればよいのではないだろうか。