これがみうらじゅんの仕事術「『ない仕事』の作り方」きっとビジネスにも役立つ。はず。

前回の「「消された一家 −北九州・連続監禁殺人事件」松永太は死刑でも優しすぎる」は、本当に読んでいて気が滅入りました。

続いて「殺人犯はそこにいる」(清水 潔)を読もうと思っていたのですが、一度気楽に楽しんで読める本を読みたいと思い、「『ない仕事』の作り方」(みうら じゅん)を読みました。

「ない仕事」の作り方(みうら じゅん)

みうらじゅんの仕事は「ジャンルとして成立していないものや大きな分類はあるけれどまだ区分けされていないものに目をつけて、ひとひねりして新しい名前をつけて、いろいろ仕掛けて、世の中に届けること」だそうです。

この本を読んで、みうらじゅんに関していろいろ勘違いしていたことに気づきました。

みうらじゅんと言えば「マイブーム」や「ゆるキャラ」などの名づけ親でも有名ですが、中でも「マイブーム」は1997年に『現代用語の基礎知識』による新語・流行語大賞のトップテンに選ばれ、今でもよく使われています。

「マイブーム」って、「最近、個人的に夢中になっているもの」のような意味で使われていると思っていました。しかし、本来の意味は、みうらじゅんが面白いと思ったものやことがらを、世の中に広めていくことのようです。

そして、その「マイブーム」を広げるために行っている戦略を「一人電通」と呼んでいるそうです。意味はそのまんまで、広告代理店の電通で行っていることを、全部一人でやってしまおうということです。

ネタを考えるのも自分。ネーミングするのも自分。デザインや見せ方を考えるのも自分。雑誌やテレビやイベントなどで、それを発表するのも自分。さらに、そのために編集者やイベンターを「接待」し、なるべくネタがよく見えるように、多くの人の目に触れるようにしていくのも自分。
クリエイティブだけでなく、戦略も営業もすべて一人で行うわけです。

接待まで? ホンマかいな? と思ってしまいますが、この本では「マイブーム」を「一人電通」によって広めたその手法(仕事術)を紹介されています。つまり、みうらじゅんの「仕事術」について書かれたビジネス書なのです。きっとフツーのビジネスマンにも役立つはずです。

ネーミングのコツ

今までにないことを仕事にするということで「ない仕事」なのですが、まず、名称もジャンルもないものを見つけるところからスタートします。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるそうです。

この部分は適当でもよさそうに思われるかもしれませんが、実はここが一番重要ではないかと思います。

例えば「いやげもの」。悪趣味な置物やキーホルダーなど、もらって嬉しくない「嫌なみやげもの」を「いやげもの」と名づけています。似ているものに「カスハガ」もあります。これも文字通りカスのような絵葉書ですが、このようなみやげものや絵はがきを集めている人は他にもいると思います。でも「いやげもの」や「カスハガ」という名前がなければ、他の人にはなかなか魅力が伝わりません。これらの名前がつけられて初めて、みんなが興味を持つようになると思うのです。

ここが重要なところですが、難しいところでもあります。考えても、なかなかマネできるものではありませんが、この本ではネーミングのコツも書かれています。

みうらじゅんが名づけたほとんどの名称は、水と油、もしくは全く関係がないものを結びつけて作っているそうですが、その時、一方をもう一方が打ち消すようなネガティブなものにするそうです。

そして、ネーミングする時にインターネットを使うそうですが、普通とは逆で「出てこない言葉」を探すそうです。これから世に出したいもの、そのネーミングがまだ誰も手を出していないものかどうかを確認するために検索するそうです。

無駄な努力

名前をつけた後は「自分を洗脳」して「無駄な努力」をするそうです。人に興味を持ってもらうためには、まず自分が「絶対にこのブームがくる」「これだけ面白いものが、流行らないわけがない」と強く思い込み、自分を洗脳していくそうです。

そこで必要になってくるのが「無駄な努力」で、興味の対象となるものを、大量に集めるそうです。好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになるという戦略だそうです。

ここでも大きな勘違いをしていました。元々昔から集めていたものを「マイブーム」として紹介しているのではなく、フィギ和も、ゴムヘビも興味を持ってから集めていったそうです。これはなかなかマネできることではないでしょう。どう見てもいらない物にお金をかけて集めていくなんて。

発表

なかったジャンルのものに名前をつけ、それが好きだと自分に思い込ませ、大量に集めたら、次にすることは「発表」だそうです。収集しただけではただのコレクター。それを書籍やイベントに昇華させて、初めて「仕事」になるそうです。いや、わかるけど、みうらじゅん以外にそれを仕事にできる人なんているのかな?

ここからも勘違いしていました。雑誌で取り上げてもらうために、編集部に企画を持ち込んだりしているそうです。ホンマかいな! なんか勝手に依頼がきて、それで紹介したりしていると思っていたのですが、世の中そんなに甘くはないようです。しかも、連載の企画を持ち込んでもすぐに実現するなんて奇跡はなかなか起きないそうで、接待まですることがあるそうです。

「ゆるキャラ」の場合はなかなか雑誌の連載が決まらなかったので、イベントまで仕掛けたそうです。2002年11月23日に後楽園ゆうえんちのスカイシアター(野外ステージ)で「第一回みうらじゅんのゆるキャラショー」を開催し、そこから「週刊SPA!」編集部から連絡がきて、2003年1月にようやく「ゆるキャラ」を紹介する「ゆるキャラだョ! 全員集合」の連載が始まったそうです。

なんとなくおもろい物を集めて、なんとなく紹介してるだけみたいに思っていたのですが、見えないところでスゴく努力をされていることがわかりました。同じようなコレクターはいても、それを仕事にできる人って、なかなかいないのではないでしょうか。

最後に・・・

最後に、ビジネス書らしく、仕事にいかせそうなところをいくつか紹介したいと思います。

ネーミングについて。

造語が普及するかどうかのポイントは、マイナスから入っているかどうかが大きいような気がします。普通宣伝のキャッチコピーはプラスの面を強調して伝えることが多いですが、それだと「名前ほどたいしたことない」「名前負けである」と思われてしまいがちです。入口がマイナスな名前は、その点安心です。そして、「友達同士でつけた先生のあだ名」のように、相手に怒られるかもしれないくらい破壊力のあるネーミングのほうが、流行りやすいと感じています。

ブームについて。

ブームというのは、この「勝手に独自の意見を言い出す人」が増えたときに生まれるものなのです。
そういう意味で、あらかじめ「ゆるキャラとはこういうものです」という理論づけはしないほうがいいのです。人に誤解されたり、我がもののように言いたくなるような「余白」を残しておかなくてはなりません。

接待について。

最近の若い人は、飲み会や接待を嫌うと聞きますが、もったいないと思います。ずばぬけた仕事の才能の持ち主なんて、世の中にそうたくさんいません。同じスキルを持っている人が二人いたら、「接待力」のある人のほうが断然有利です。
「接待力」は鍛えれば身につけることができます。「習う」より「慣れろ」です。「接待力」が身につくと、仕事の「営業トーク」も上手くなるでしょうし、職場も明るくなるし、楽しく仕事ができるようになるはずです。

「キープオン・ロケンロール!」
何事もやり続けることが大切だそうです。