伊丹十三監督の映画「スーパーの女」を観て、仕事について考えた
伊丹十三監督の映画「スーパーの女」を観ました。
この映画が公開されたのは、1996年6月15日。
僕はテレビでは映画をほとんど観ないので、この映画を観たのは15年ぶりかもしれません。
ストーリーは今さら僕が説明することもないと思うのですが、儲けるためなら手段を選ばないスーパー「安売り大魔王」に客を奪われ、つぶれかけているスーパー「正直屋」を専務の幼馴染の井上花子が建て直していくという話です。
15年前に観た時は、娯楽作品として単純に楽しめましたし、売れ残りの食品をパックし直して新しい日付をつけ直すリパックや産地の偽装など、今まで考えたことがなかったスーパーの暗黒面を観て驚きました。
特にオーストラリア牛と和牛を重ね、かさを増して和牛として売る。合成和牛を作っているシーンは気持ちが悪く、とても印象的でした。
でも、本当にこんなことやってるのか?
半信半疑でそう感じたのですが、牛肉ミンチの品質表示偽装事件が発覚したのはそれから11年後、2007年6月20日のことでした。
やっぱり本当だったのか...
その時「スーパーの女」を思い出したのは言うまでもありません。
果たして、今観ても楽しめるのか?
見始めてすぐにその心配は杞憂に終わりました。
おもしろい!
古くささもなく、15年間の時間を感じませんでした。
映画としておもしろいのはもちろん、スーパーの裏側の話もおもしろかったのですが、今回はまた違ったおもしろさを感じることができました。
それはスーパーの仕事です。
商売とは何か?
スーパーの目的とは何か?
でもこれはスーパーだけでなく、他の仕事でも同じです。
花子は正直屋を変えていこうとするのですが、入社した直後はなかなかうまくいきません。特に昔からいる精肉、鮮魚の長は職人気質で、昔からのやり方を変えようとしません。
どこのスーパーもやっているという理由で、リパックをやらされたり、前日の残り物を使って総菜を作らされている人たちは、お客さまを騙すことになるので嫌々やっています。だから自分の仕事にプライドも持てず、モチベーションもあがりません。
これらいろんな問題をお客さまの声を使ったり、一緒になって解決し、徐々に従業員一人一人がスーパーのプロとして自覚し、一丸となっていきます。
また、正直屋におにぎりを卸しているツルカメ食品の社長は、スーパーにおにぎりを売っていると考えているので、おにぎりを口にするお客さまのことなど考えていませんでした。
花子の働きかけにより、初めてお客さまがおにぎりを「美味しい」と言って食べているのを見て、涙を流します。
目的が「スーパーにおにぎりを売る」から「お客さまにおいしいおにぎりを食べてもらう」に変わった瞬間、ツルカメ食品のおにぎりに対する意識も変わったことでしょう。
最近、仕事で迷った時に考えることがあります。
「これでお客さんは喜んでくれるのか?」
時間がないから、手間をかけられないからいろいろ理由はあるけど、やっつけ仕事を求められることがありますが、それを喜んでくれるお客さんがいなければ、そんなことやってもしょがない...
今頃気づいた僕は、もっと早くにこの映画を見直せばよかったと思いました。
いろいろ書いてしまいましたが、実はどれもたいしたこと言っていません。
ごくごく当たり前でフツーのことばかりです。
でも、これを映像で見せられ、それがどんどん良い方向に向かって行くところを目の当たりにすると、いろいろ考えさせられてしまいました。
最後に安売り大魔王に従業員が引き抜かれようとした時、花子が言ったセリフが胸に刺さりました。
(安売り大魔王は)安いだけが取り柄なのよ。
安さ以外、お客さまに胸を張れるものは何もないのよ。
悲しいじゃないの。
今どんな仕事であれ働いている人はもちろん、これから働く学生さんにも観てもらえるといいなと思いました。
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