横井軍平のことば「ものづくりのイノベーション『枯れた技術の水平思考』とは何か?」

僕らはみんな横井軍平チルドレンだ。

横井軍平の名前は知らなくても、横井軍平の作ったおもちゃやゲームを遊んだことがない人はいないのではないだろうか?

例えば「ゲームボーイ」

任天堂「ゲームボーイ」

古すぎる?
それまでゲーム機に使われていたジョイスティックの代わりに「十字キー」を作ったのも横井軍平だ。

任天堂「ファミリーコンピュータ」(ファミコン)の初代コントローラー(四角いボタン)

つまり、横井軍平がいなかったら、今日「ニンテンドー3DS」に十字キーがなかったかもしれない。いや、それどころか、「3DS」自体がなかったかもしれないし、今の「任天堂」もなかったかもしれない。

任天堂で30年もの間、第一線でおもちゃやゲームを開発し、「トランプ、花札の任天堂」を「世界の任天堂」に変えた、それが横井軍平だ。

横井 軍平(よこい ぐんぺい、1941年9月10日 - 1997年10月4日)は、日本の技術者、ゲームクリエイター。京都府京都市出身。同志社大学工学部電子工学科卒。
1965年に任天堂に入社。『ゲーム&ウオッチ』『ゲームボーイ』『バーチャルボーイ』等の開発に携わり、宮本茂と並んで任天堂を世界的大企業へと押し上げる原動力となった。1996年に任天堂を退社し、株式会社コトを設立。

横井軍平 - Wikipedia」より

残念ながら15年前、交通事故により56歳という若さで亡くなった。
しかし、横井軍平が残した影響は大きく、今でもリスペクトする人は多い。
僕もそのうちの一人だ。

横井軍平、最後の著書

亡くなってから時間が経つので、2年前「企画開発の仕事をしている人にも読んでもらいたい「横井軍平ゲーム館 RETURNS」」で紹介した「横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力」が最後の本になると思っていた。

だから、Amazonで「ものづくりのイノベーション「枯れた技術の水平思考」とは何か?」を見つけた時は驚いた。

決定版・ゲームの神様 横井軍平のことば ものづくりのイノベーション「枯れた技術の水平思考」とは何か?

スティーブ・ジョブズが亡くなった後、雨後の筍のようにジョブズの本が店頭に並ぶようになったように、横井軍平の名前を使った本が出たかと思った。
だが、写真を見ればわかるように、なんと「横井軍平 著」なのだ。

これは軍平チルドレンでなくても読むでしょ?

亡くなって15年も経つのに著者って、どういうこと? と思ったが、横井軍平が生前出ていた雑誌や書いた文章、発言などを集めたものであった。

つまり一番最新の記事でさえ、15年前に書かれたものだ。古い記事になるとそれ以上前に書かれたものになる。
しかし、今読んでも色あせることはなく、現代のものづくりのヒントになることも多く書かれている。

「ヨコイズム」はゲームクリエイターやゲーム業界だけでなく、どの業界の人にも得るものがあるはずだ。
これこそ「枯れた技術の水平思考」ではないか?

開発哲学「世界にないものをつくる」

横井軍平の開発哲学は「世界にないものをつくる」。
世界にない商品をつくれば、新しい独占市場を手にすることができる。似たような商品をつくれば競合して、シェア争いになる。そんなシェア争いをするなら、新しいシェアをつくった方が手っ取り早い。

このあたり、同じようなことを考える人は少なくないだろう。
横井軍平にしびれる、憧れる人が多いのは、ここから先ではないか?

世界にない商品をつくるということは「世界の最先端をゆく」でも「世界にはまだない技術を使う」ということではない。
最先端にこだわり、不要なものをたくさんつけて高価な玩具をつくるのではない。いらない機能は全部捨てる。最先端技術には飛びつかず、娯楽に使える値段まで落ちた時に使う。
軍事や医療などのために出てきた最先端技術は、いろんな用途に使われていくうちに値段が安くなっていく。しかし、誰も娯楽に使おうとはまだ考えつかない。そこを狙うのが「世界にまだない商品」の開発だという。

そして、これこそが「枯れた技術の水平思考」なのだと。

横井軍平が部下に常に言っていたのは

すごい商品をつくるな。売れる商品をつくれ。

誤解されることもあるが、決して最先端技術を否定しているのではない。
コストとのバランスや、売上までも考えて開発していたということだ。

ワンマン体制について

任天堂の山内溥社長(現在は相談役)と言えば、「ワンマン経営者」として有名であるが、当時のことがこのように書かれている。

「ワンマン体制=悪」という感覚でとらえる人は多いが、商品開発の場合、そうとも言えない。
ゲーム&ウォッチ」はワンマン体制だからこそ生まれた商品。社長が「すぐにやれ」ということで開発をスタートしたが、社内の声は「そんなもの売れない」という否定的な意見が多く、普通の会社組織なら営業会議や重役会などを経てるうちに潰されていた商品だった。

もちろん「ワンマン体制」については、良い面だけでなく、悪い面もあったようで、ある人が困っていて助けたにもかかわらず、飼い犬に手を噛まれるような行為をされたことがあるそうな。
誰も社長に報告しようとしなかったので、今でも社長は気がついていないらしいが、どこにでもそういう人はいるものだ。

ちょっと自慢

これはもう知らない人も多いと思うが、任天堂の「光線銃カスタム ライオン」だ。

任天堂「光線銃カスタム ライオン」

同じく「光線銃カスタム ガンマン」
30年以上前のおもちゃだが、未だに捨てられずに持っている。

任天堂「光線銃カスタム ガンマン」

光線銃でターゲットを撃つ。当りと判定されるとガンマンが倒れる。しばらくすると再び立ち上がる。
それだけ? と思われるかもしれないが、画面上で敵が倒れるテレビゲームよりも、目の前で音を立てて人形が倒れるって、楽しさがぜんぜん違う。
これは実際にやってみないとわからないかもしれない。
ただ、すぐに飽きるけど。

たまにCGのない時代の映画を観た時、背景がCGではなくセットであったり、模型を使った特撮であったりすると、CGより映像としてはショボいけど、絵(CG)ではなく、そこに実際に存在するものが映っているよさ、味を感じることがある。(僕だけ?)
あんな感じ。

最後に

任天堂退社後、コトを立ち上げてからの記事が多かったので、任天堂入社当時の話や、開発部に入った経緯、「バーチャルボーイ」の話、任天堂を辞めたきっかけ、コトを立ち上げた話が多く感じた。

横井軍平ファンには自信を持ってオススメできるが、横井軍平のことをよく知らない、横井軍平に関する本を一冊も読んだことがないという人には「横井軍平ゲーム館 RETURNS」を先に読むことをオススメする。

「ものづくり」に携わる人には、任天堂に今も脈々と受け継がれている横井軍平の哲学「ヨコイズム」「枯れた技術の水平思考」を知るためにも、ぜひ読んでもらいたいと思った。